イギリス生地とイタリア生地の違い

イギリス生地とイタリア生地の違い 選びかた
選びかた
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スーツの生地にもお国柄

スーツのスタイルに、伝統的なブリティッシュスタイルと洗練されたイタリアスタイルがあるように、生地にも国による特徴が見られます。では、イギリス製とイタリア製の生地にはどのような違いがあるのでしょうか。

堅牢性を重視するイギリス生地

イギリス製の生地は、見た目の美しさや肌ざわりだけでなく、「丈夫さと防シワ性」も重要な要素とされ、緻密な織りで仕立てられます。生地を織るときのスピードを落とし、ゆっくりと目の詰まった織り方で織られるため、しっかりとした風合いを生み出すのが特徴です。そのためイギリス製の生地は丈夫でシワにもなりにくい反面、少し硬く重たくなってしまうという特徴があります。

背広(せびろ)の語源ともいわれるロンドンの「サヴィル・ロウ」では、12オンス (約340g)という肉厚の生地が定番で、別名「サヴィル・ロウ番手」とも呼ぼれています。名だたる有名テーラーたちもこの重厚な生地を好んで使い、「良い物を長く愛用したい」というイギリス人ならではの国民性が、そのような物づくりをさせているのかもしれません。

優雅さを追求するイタリア生地

一方、イタリア製の生地は、見た目の美しさと肌ざわりの良さを最優先に考えられています。そのため、耐久性や防シワ性はある程度犠牲になり、高速織機で比較的ゆるく織られることで、軽やかで柔らかな風合いが生まれます。

イタリア製の生地の場合、冬物でも260g~290g程度が一般的で、イギリス製に比べると軽量なのが特徴です。また、光沢を際立たせる「ツヤ出し加工」が施されたものが多く、洗練された美しさを演出します。ファッションの国イタリアらしく、色柄のバリエーションも豊かで、独自のセンスが光ります。

「スーツは現代の鎧」とも言われますが、まさに鎧のような「堅牢性」を示すイギリス製の生地に対し、イタリアの生地は軽く、柔らかな肌ざわりが魅力。体の動きに応じで自然にできるシワが光を反射して「官能的」な美しさを演出しますが、シワになりやすく耐久性に劣ります。

糸からして違うイギリス生地とイタリア生地

スーツの生地を織る糸には、単糸(たんし)と呼ばれるものと双糸(そうし)と呼ばれるものがあります。単糸は文字通り1本の糸で構成され、双糸は2本の単糸を撚(よ)りあわせてできています。双糸は単糸よりも太く、丈夫な糸ができあがります。(他にも3本、4本の糸を撚り合わせたものもありますが、話がそれてしまうのでここでは触れません)

スーツの生地は縦糸と横糸(正式には経糸・緯糸と書きますがここではわかりやすく縦糸・横糸と表記します)によって織られますが、この糸の使い方には国ごとの特徴が見られます。

イタリア生地の軽やかな織り

イタリア製の生地は、縦糸に双糸横糸に単糸を用いた織り方が主流で、「横単(よこたん)」と呼ばれます。横単で織られた生地は軽くて柔らかく手ざわりは良いですが、その分耐久性に劣ります。

イギリス生地の堅牢性

対照的に、イギリス製の生地は 縦糸・横糸ともに双糸 を用いるため、「縦横双糸(たてよこそうし)」と呼ばれます。縦横双糸で織られた生地は丈夫でシワにもなりにくいですが、その分硬くて重たい生地が織りあがります。

イタリア生地にも丈夫なものはある

 ここで少しスーツ生地に詳しい人なら「イタリア製にも丈夫でシワになりにくい生地はあるのでは?」と疑問に思うかもしれません。たしかにイタリアの有名な生地メーカー エルメネジルド・ゼニアには「トラベラー」という耐久性に優れた生地があります。これは文字どおり旅行や出張時の着用を想定して開発された生地で、ファッション雑誌などでは「最もシワになりにくい生地」と紹介されることもあります。

では、トラベラーが防シワ性に優れる理由は何かというと、縦横双糸で織られているから です。
他のゼニアの生地の多くは横糸に単糸を使用しているため、トラベラーの方が明らかに丈夫なのです。

防シワ性能の誤解

これだけ読むと、「ゼニアのトラベラーは世界トップクラスの防シワ生地」という印象を持たれるかもしれませんが、正確には 「ゼニアの生地の中では最もシワになりにくい」 という意味であり、「世界でもトップクラスの防シワ性」というわけではありません。

そもそも、イギリス生地は最初から縦横双糸で織られており、打ち込みがしっかりしていて目が詰まっています。そのため、防シワ性に関しては、ゼニアのトラベラーといえどイギリス生地には敵わないのです。

多くの記事ではこの点まで詳しく書かれていないため、誤解しないよう注意したほうが良いでしょう。

正しい生地の見極めかた

目付けとは

サヴィル・ロウ番手で織られた生地は340g、イタリア製の生地は冬物の場合でも260g~290gと書きましたが、この数値は生地「1m×1m」の重さを指します。重いほど目が詰まり、厚みのある生地となり、これを 「目付(めづけ/めつけ)」 と呼びます。一般的にはイタリア製も英国製も、夏物ほど目付けが軽くなり、冬物ほど重くなりますが、なかには例外もあります。

安価な製品やノーブランドの生地は目付を公表していないことが多いですが、ブランド生地であればメーカーがきちんと公開しています。正規品のブランド生地を扱う店舗であれば、質問すればきちんと答えてくれるでしょう。

糸番手とは

糸の種類には単糸双糸があると述べましたが、それとは別に「糸番手(いとばんて)」という単位があります。これは 糸の太さ を表すもので、数字が大きくなるほど細くなります。

例えば、80番手の糸より100番手の糸の方が細い ということになります。また、100番手の糸を双糸にすると 50番手相当 の太さの糸ができあがります。細い糸を用いるほど生地は薄く軽くなります

Super表記とは

糸番手に似た概念に 「Super表記」 があります。これは 糸になる前のウールの原毛の太さ(羊毛の細さ) を示す単位で、人間の髪の毛のようにミクロン単位で測定されます。

糸番手と同じく、数字が大きいほど細い原毛が使われていることを意味し、例えば Super100’sよりSuper120’sの方がより細い原毛を使用 しています。一般的に Super100’s以上 の生地は公表されますが、100’s未満のものは意味が薄いため公表されないのが通例です。ただし、ゼニアはブランドポリシーとして Super表記を公表していません

ここで注意すべきなのは、(糸番手と違って)Super表記が高いほど生地が薄くなるわけではない という点です。Super表記は 原毛の太さ を示すものであり、糸自体の太さとは直接関係がありません。例えば、Super120’sの原毛で 太い糸を作ることも、細い糸を作ることも可能 です。ただし、より細い原毛を用いた糸ほど、同じ太さであっても しなやかで柔らかい風合いの糸 になります。

イタリア生地メーカーと原毛のこだわり

よく「この生地はSuper120’sだから良い生地だ」と言われることがありますが、これはあくまでイタリア生地メーカーの価値観に基づいた評価です。

イタリアの生地メーカーは 見た目の美しさと肌ざわりの良さ を最優先に考えるため、柔らかさを追求し、できるだけ細い原毛を使用する 傾向があります。

対して イギリス生地メーカー は、原毛の細さにそこまでこだわりません。むしろ 耐久性を重視するため、細すぎる原毛は避けられる傾向にあります。実用的と呼ばれるSuper100’s程度の原毛が好まれます。

「Super表記が高いほど良い生地」はイタリアの価値観

まとめると、「Super表記が高いほど優れた生地」という考え方は イタリア生地の価値観 に基づくものであり、イギリス生地には必ずしも当てはまらない ということです。

結局イギリス生地とイタリア生地どちらが優れているのか?

結論から言えば、どちらも優れた生地 です。
これは、質実剛健なロールスロイスと、官能的で美しいフェラーリを比較するようなもので、両者にはそれぞれ異なる魅力があるため、一概に優劣をつけることはできません。

イギリス生地とイタリア生地の特性を理解し、目的や好みに応じて選ぶことが重要です。

例えば、「とにかく丈夫なスーツが欲しい」 のであれば、ゼニアの トラベラー を選ぶよりも、目付のしっかりした英国製の生地 を選ぶ方が適しています。逆に、「耐久性だけでなく、光沢感があり、着心地の良いスーツが欲しい」 という場合は、トラベラーが最適な選択肢のひとつ となるでしょう。

人気の傾向

イギリス生地もイタリア生地も、どちらも甲乙つけがたい優れた生地ですが、ただし「どちらの生地の方が人気が高いのか?」 という問いには、「イタリア生地の方が人気が高い」と答えられます。みなさん最初は「シワになりにくいほうが良い」と言うのですが、最終的には「見た目の美しさ」を重視する傾向が強いのです。やはり見た目は重要なポイントですね。

イギリス生地とイタリア生地の「いいとこどり」をした生地メーカー

 ドーメル は工場をイギリスに構えながらも、本社がフランスにあるため、ファッション感度が高く、イタリア生地のような見た目の美しさや肌ざわりの良さも追求する「欲張りな」ものづくり を行っています。
特に、ドーメルの「アマデウス」 は、

  • Super100’sの原毛を使用
  • 縦横双糸でしっかりと織り上げられた高耐久性
  • 特殊加工により生まれる美しい光沢と滑らかな手ざわり

 といった特徴を兼ね備えた、まさに 「いいとこ取り」 の逸品です。
その上、パリのエスプリが効いたデザインも相まって、発売以来瞬く間に評判となり、プレミアムブランドやメゾンブランドにも広く採用されるほどの人気を誇っています。

 また、スキャバル も同様に工場をイギリスに構えつつ、本社がベルギーにあるため、英伊折衷のものづくり に強みを持っています。

 特に 「ザ・ロイヤル」 は、ドーメルのアマデウス同様に英国生地の丈夫さとイタリア生地の美しさを兼ね備えた仕上がりとなっており、おすすめの選択肢です。

さまざまな生地から選べるのもオーダーメイドの醍醐味のひとつ

 ここで紹介したように生地にはさまざまな特徴があるのですが、既製品と違って目的や用途に応じてたくさんの生地から選べるのもオーダーメイドの良さの一つと言えます。専門店であれば生地に関する知識も豊富なので、わからないことがあれば気軽に相談できるのも魅力の一つです。

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